地域日本語教室が技能実習生にできる日本語支援とは

―秋田市在住技能実習生対象のニーズ調査より―

古田梨乃・宮淑・平田友香

Effective Way of Japanese Language Teaching at Local Community Classes for Foreign Technical Trainees - Report of Japanese Language Learning Needs Analysis Survey

FURUTA Rino, MIYA Shuku, HIRATA Yuka

要旨

筆者らが関わっている秋田市日本語教室は、秋田市が主催・運営している地域日本語教室で、主な教科書として『みんなの日本語』を使用し、レベル別の4クラスが開講されている。秋田市における技能実習生の増加に伴い技能実習生の教室登録者数も全体の54%に至った。しかし、新型コロナウイルスの影響でオンライン授業となったこともあってか、2021年度末頃、技能実習生の参加率の低下が問題となった。そこで2022年6月に秋田市の技能実習生を対象に日本語支援に関するニーズ調査を行い、50名から回答を得た。尚、本教室は2023年4月から対面授業に戻った。

調査の結果、日本語学習の機会の確保のために、受け入れ企業の積極的な協力が必要であること、仕事場面や生活における手続き関係で必要な日本語の支援を求めていること、教室には交流の場としてのニーズがあることがわかった。今後、技能実習生が参加したい教室を目指すには、仕事の日本語、生活の日本語、JLPT対策を行う等技能実習生のキャリアを考えた日本語の指導・支援を強化していく必要があることが明らかになった。

本稿ではこの結果を受け行った4つの新たな取り組みについて述べ、地域日本語教室の在り方について考察する。

キーワード:地域日本語教育、外国人技能実習生、ニーズ調査、多文化共生社会

Abstract

The Akita City Japanese Language class, organized and operated by the Akita City government, offers community-based Japanese language classes using the "Minna no Nihongo" curriculum with classes structured according to proficiency levels. With the increasing number of technical trainees in Akita City, constituting 54% of the total enrollment, the decrease in participation rates due to online classes during the COVID-19 pandemic posed a significant challenge. In response, a needs assessment survey was conducted in June 2022, gathering responses from 50 technical trainees. The classes resumed in-person status from April 2023.

The survey revealed the necessity for active cooperation from host companies to secure opportunities for technical trainees to learn Japanese, as well as the need for support in Japanese language for work-related tasks and daily life procedures. Moreover, there is a demand for social interaction opportunities. To address these needs and encourage participation, it is crucial to enhance Japanese language instruction and support tailored to the career paths of technical trainees, focusing on workplace Japanese, daily life Japanese, and JLPT preparation.

This article discusses four new initiatives based on the survey findings and reflects on the role of community-based Japanese language schools in light of these developments.

Keywords: Community Japanese Language Teaching, Foreign Technical Trainee, Needs Survey, Intercultural Society

I. 研究の動機

Ⅰ-1. 多文化共生の拠点としての地域日本語教室

出入国在留管理庁によれば、2023年の在留外国人の数は過去最多の322万人を記録した。2018年の出入国管理及び難民認定法の改正、新型コロナウイルスの渡航への影響の減少から、今後ますます外国人住民が増加することが予想される。また、少子高齢化が劇的に進行する我が国は、外国人住民の支えなしには成り立たなくなっているともいえる。「外国人を含め誰もが対等・平等に参加できる社会」(山田 2018)との考えに支えられる多文化共生社会の実現が望まれる。この点、地域の日本語教室は、多文化共生社会実現の最も重要な拠点の1つとなっている。教室には、国籍や文化的背景、身分、年齢の異なる在留外国人と日本人が定期的に集まり、日本語の支援や異文化理解のための活動などが行われているからである。また、語学学校がない地域においては地域日本語教室が日本語支援の需要を一手に引き受けている例も多い。このような地域日本語教室においてどのような外国人支援活動を行うことが多文化共生社会の実現を助けるかについて研究していくことが求められている。

Ⅰ-2. 外国人技能実習生と地域日本語教育

1993年に創設された外国人技能実習制度は、日本企業において技能や技術を習得し、それを母国に持ち帰ることで、母国の経済発展に寄与する人材を育成することを目的としたものであるが、日本の労働力不足を補うために利用されていると屡々指摘されてきたことからもわかるように、労働の担い手として技能実習生に頼らざるを得ないのが現状である。日本における在留外国人の中で外国人技能実習生の占める割合は2023年6月末には11.1%となっている。外国人技能実習生の総数はコロナパンデミック時の2021年末には27万6千人まで数が減ったものの、コロナ後2022年末には32万5千人、2023年6月末は35万8千人と再び増加傾向にあり、在留資格別に見ると「永住者」に次いで2番目に多い(出入国在留管理庁 2023)。技能実習生の日本語教育については事前講習で実施することが義務付けられており(平成22年法務省令, 第39号)、実習を開始してからは受け入れ企業においても行われるべきとされている(日本語教育推進法, 第6条)。しかしながら、実際には受け入れ企業において日本語教育が体系的になされている例は非常に少ないという問題がある。これは受け入れ企業による日本語教育の実施は罰則規定のない努力義務にとどまっていること、受け入れ企業に、それにかけられる金銭的時間的余裕やノウハウがないことが主たる理由だと考えられる。そのため無料または極めて少額で利用できる地域日本語教室が、技能実習生の日本語教育の受け皿となっている側面がある。これに対し日本語教育を行うのは企業の責任なのだから、地域日本語教室が技能実習生を受け入れるべきではないとの考えもある。筆者らは、企業が技能実習生に対する日本語教育・支援の責任を放棄することは許されないとの主張に強く賛同しつつ、技能実習生を地域日本語教室で受け入れることもまた否定されるべきではないとの立場に立つ。技能実習の期間が3年から5年に延長されたことを機に、技能実習生を単なる出稼ぎ労働者ではなく地域の隣人として迎え入れることが技能実習生、地域住民双方にとって大きな効果があると考えられ始めているが(岩下 2018)、技能実習生も日本社会と関わりながら日本で生活を営んでいるという意味において地域社会の構成員であることに相違ないからである。古田(2023)のように、地域の日本語教室が技能実習生にとって仕事のモチベーションを向上させる居場所として機能していたり、支援者や他の外国人住民と有意義な交流を行っていたりする例もあり、外国人住民を在留資格で選別せずに受け入れていくことは技能実習生・日本人支援者双方にメリットがあると解すべきである。以上のことから、これまで地域住民として認識されてこなかった技能実習生を地域住民としてとらえ、彼らの地域日本語教育に対するニーズを明らかにし、地域日本語教育に反映していくことが必要になってきているというべきである。

Ⅰ-3. 秋田市日本語教室における技能実習生

技能実習生の増加傾向は外国人散在地域である秋田県においても同様であり、2023年末の統計では外国人労働者数3,161人の約半数1,501人が技能実習生である(秋田労働局 2023)。

地域の日本語教室である秋田市日本語教室は、秋田市が公的サービスとして主催・運営している。講師は有資格者に限定され有償である1)。『みんなの日本語』を使用したレベル別のクラスが週1回(木曜日の18時30分から20時まで)実施されている。筆者らがアンケート調査を実施した2022年現在約61名の外国人住民が登録、30名程度が継続的に参加していた県内最大の教室である。秋田市においては、技能実習生も地域の住民であることに変わりない(平田ほか 2022)との理由により積極的に地域日本語教室で受け入れているため、技能実習生が登録者に占める割合は54%と大きい。しかし、その技能実習生の出席率が近年、相当程度低下していることが当教室において問題となった。筆者らはその原因が教室の内容や方法が技能実習生のニーズと合致していないためではないかと考え、技能実習生に対しニーズ調査を実施し、教室の内容や方法の改善を図る示唆を得ることとした。

Ⅱ. 先行研究

技能実習生に対する日本語教育のニーズ調査を行った先行研究には田中・風晴(2021)、毛利・中嶋(2021)がある。前者は水産加工及び食品製造の技能実習生84人に対しアンケート調査にて、後者は農業分野に従事する5人の実習生に対しアンケート及びインタビューにて、ニーズ調査を行った。いずれも業種の専門性を考慮したシラバス、教材を開発する必要があるとの問題意識のもと行われた調査であり、今後入国前及び入国後の日本語教育の方法の改善に役立てることが期待される。本調査では、業種による専門性というよりは、秋田市という土地で、技能実習生以外の参加もある地域の日本語教室で、具体的に何ができるか、何をするべきかという観点から技能実習生に対する地域の日本語教育についてのニーズ調査とその分析を行うこととする。

Ⅲ. 調査の方法と内容

アンケートの調査項目には、外国人のニーズを把握することで日本語教室の設置やプログラム・研修の改善に活用することを目的として作成された、「日本語教育に関する調査の共通利用項目」(文化庁発行2016年)に、秋田市日本語教室にかかわる独自の質問を追加した。言語は日本語版、英語版に加え、各技能実習生の母語(インドネシア語、ベトナム語、モンゴル語)に翻訳したものも作成した。

2022年6月秋田市内の技能実習生受け入れ企業7社に依頼をし承諾を得たうえで、2022年7月に書面のアンケートを送付した。対象者には、現在秋田市日本語教室を利用している者に加え、利用していない者も含んでおり、利用していない技能実習生のニーズも明らかにすることができる可能性があるのが特徴である。また、これまで秋田市日本語教室と交流がなかった受け入れ企業に対してもニーズ調査の協力を依頼することで、教室の存在を知らせ、新しい日本語学習者の参加につながることも期待された。

Ⅲ. 調査の方法と内容

アンケートの調査項目には、外国人のニーズを把握することで日本語教室の設置やプログラム・研修の改善に活用することを目的として作成された、「日本語教育に関する調査の共通利用項目」(文化庁発行2016年)に、秋田市日本語教室にかかわる独自の質問を追加した。言語は日本語版、英語版に加え、各技能実習生の母語(インドネシア語、ベトナム語、モンゴル語)に翻訳したものも作成した。

2022年6月秋田市内の技能実習生受け入れ企業7社に依頼をし承諾を得たうえで、2022年7月に書面のアンケートを送付した。対象者には、現在秋田市日本語教室を利用している者に加え、利用していない者も含んでおり、利用していない技能実習生のニーズも明らかにすることができる可能性があるのが特徴である。また、これまで秋田市日本語教室と交流がなかった受け入れ企業に対してもニーズ調査の協力を依頼することで、教室の存在を知らせ、新しい日本語学習者の参加につながることも期待された。

Ⅳ. 調査の結果と考察

57名の技能実習生の回答を得たが、有効回答数は50であった。

アンケートの内容は主に(1)年齢や性別などの基本的な質問、(2)来日前の日本語学習の状況やJLPT受検状況、(3)現在の日本語学習、(4)秋田市日本語教室に対する要望、(5)4技能の自己評価、の5つに分かれている。本稿では、紙幅の都合上、全ての調査結果を記述することはできないため、調査からわかったこととその根拠を論ずることとしたい。

IV-1. 教室への継続的な参加のためには受け入れ企業の協力が不可欠である

アンケートの結果、秋田市日本語教室に参加する最大の理由は「会社の人がすすめたから(14人)」、参加しない理由は「忙しいから(19人)」、「時間が合わないから(13人)」であった。これらの結果からは、技能実習生の教室への継続的参加のためには、企業が教室を紹介し、参加を促したり、シフトの調整をしたりするなど、受け入れ企業の積極的な協力が必要であることがわかる。実際、秋田市日本語教室において現在参加数が多く、参加率も高い技能実習生の受け入れ企業は教室に行きやすいよう教室がある日にシフトを入れない、担当者が自家用車で送迎するなどしている。

IV-2. オンラインを希望するか、対面を希望するかについては差がない

秋田市日本語教室は新型コロナウイルスの影響により2020年から2022年にかけてオンラインで実施していたため、オンラインのノウハウを持っているが、アンケートの結果は、「オンラインを希望する(8人)」、「対面を希望する(11人)」、「どちらでもいい(20人)」であり、オンライン希望か対面希望かについてはあまり差がないことがわかった。2023年4月からは対面で開催されているが、対面では「おしゃべり」がしやすい等の利点があり(古田ほか 2021)、その特徴を生かした活動の設計をしていくことが望まれる。一方でオンラインにもメリットがある。秋田市は面積が広大で通うために時間や交通費がかかる、豪雪地帯であるため大雪の際に外出できないことも少なくないなどの問題があり、対面だと教室に行きたくても不可能な場合も多々あるためである。対面、オンラインのメリットデメリットを踏まえながら、雪の多い冬季期間はオンライン授業を提供するなど、柔軟に教室形態をかえていくことが求められるのではないだろうか。

IV-3. 生活で必要な日本語のニーズが高い

事前講習でよく使用されているという『みんなの日本語』についてであるが、調査の結果、予想通り、約87%の技能実習生がこれを使って日本語を学んだ経験があることがわかった。このことから、これのみを使ったクラスは彼らの学習意欲を削ぐ可能性があるといえる。

次に、教室で扱う内容に直接的な示唆を与える項目についてみていく。以下の表1~4は回答結果についてまとめたものである。

以上の結果から、第一に、既に勉強をしたことがある『みんなの日本語』を再び使用し、文法積み上げ型学習を主にしていくのは、彼らのニーズに合致するとはいえず、生活上の複雑な手続きに必要な日本語を筆頭に生活の日本語の学習を取り入れていくことが必要であることがわかった。『みんなの日本語』は上下2巻からなる教科書で、1冊100~150時間かけて初級文型を徐々に積み上げていくことが想定されており、秋田市日本語教室のように週に1回、1回の学習時間が1~2時間という地域日本語教室には時間の面でもなじまないといえるが、『みんなの日本語』は世界で最も使用されている教科書であり、ある程度教授法が確立されていること、副教材が充実していることなどから地域日本語教室で慣習的に用いられている場合も多い。しかし2022年時点で、インターネット上にさまざまな生活のための日本語教材が無料で公開されるなど、オンライン教材の充実も見られる。秋田市日本語教室でも安易に『みんなの日本語』の使用をルール化するのではなく、積極的にこれらの教材を取り入れていくべきである。

「友達がほしい」や「日本人や外国人と話したい」というニーズに対しては、オンラインとは異なり、おしゃべりがしやすいという対面の良さを活かし、参加者同士が自由に語りあう時間を設けることができるだろう。また、普段のクラスに加え、だれでも参加できるようなイベントなどを積極的に開催することも有効だと考えられる。

JLPT対策に対するニーズも高かったが、これは日本語能力の獲得が技能実習生の将来のキャリアに大きな影響を与えるという指摘(岩下2018a; 岩下2018b; 見舘ほか2022; 宮谷2020)と関係があるだろう。JLPTは目標としてわかりやすいため、日々のモチベーションにもなりうる(平田ほか 2022)。教室の他の参加者のニーズも考慮する必要はあるが、教室活動に適宜取り入れていく価値はあるだろう。

技能実習生であるから当然、主に日本語を必要とする場面となるのは「仕事上」であるが、技能実習生以外の参加者もいる教室で、彼らの仕事上必要な日本語を全面的に取り入れるのは難しい。技能実習生だけのクラスをつくる対応策も考えられなくはないが、他の外国人住民と交流するという地域日本語教室の大きな役割が失われてしまうことになる。現在は業種ごとに専門の日本語を学ぶことができる自習用のアプリなども開発されている。新しい情報にアンテナを張りそれらを紹介することなどが、仕事上必要な日本語を学びたいというニーズに対して地域の日本語教室が最大限できることかもしれない。理想は企業に働きかけ、主に「生活の日本語」支援を提供する地域日本語教室と「専門的な日本語」教育を提供する企業とですみ分けをしていくことだろう。

最後に注目したいのは、「近所づきあい」で日本語を使用することもあるということである。これは技能実習生が生活者としての性格を強めていることを裏付ける結果である。秋田市民の間で使われている言葉、いわゆる「秋田弁」は日本語学習者が教科書等で学んできたいわゆる東京方言との差異が比較的大きいとされているが、方言や習慣も含め、秋田で日常使用されている日本語を取り入れていくことも求められていることがわかった。

Ⅴ. まとめと今後の課題

以上により、秋田市在住の技能実習生が参加したいと思える教室となるためには、①生活に必要な日本語を主に扱う、②参加者同士が自由に交流できる時間を設ける、③JLPT対策を適宜取り入れる、④近所づきあいがうまくできるよう、方言や習慣などを含む秋田で使用されている日本語を取り入れることが必要であるということが明らかとなった。また、継続的な参加のためには受け入れ企業の積極的な協力も不可欠である。

V-1. アンケート調査の結果を受けての新たな取り組み

アンケート調査の結果を受け、筆者らは秋田市日本語教室にいくつかの提案をし、それらについて講師会議や有志の講師らと勉強会で話し合いを重ねた。そして①年間シラバスの導入、②生活に必要な日本語の支援の強化、③JLPT対策の支援を含むクラスの開始、④「技能実習生の日本語支援を考える会」の開催、以上4点を行った。

まず①については、2023年度に年間シラバスを作成し学習者にも提示することで、仕事の都合等で欠席した学習者も、いつ、どのような内容がクラスで行われているかわかるように改善した。学習者は自分が参加する授業日にどのような内容のことを学習するか事前にわかることで「先週休んでしまったから今日何をするかわからない」という不安が解消できるのではと考えた。また講師も自分が担当する回の授業を余裕を持って準備することができるため双方によい効果が期待できる。

次に②生活に必要な日本語については、年間シラバスを作成する時に『みんなの日本語』を基本に進めていくだけではなく、国際交流基金が「JF生活日本語Can-do」に基づき作成しオンラインで無料公開している『いろどり 生活の日本語』の中の、学習者が生活の場面で使用する日本語を扱った課を採用しシラバスに組み込んだ。これにより講師は生活の日本語を含む授業内容を効率的に準備することができるようになった。

また③JLPT対策の支援を含むクラスを新たに設置した。それまでは、『みんなの日本語』2冊を終えた学習者は同じ内容を復習する、または秋田市日本語教室を退会する形となっていた。しかし、新たにJLPT対策のテキストを使いながら語彙を効果的に増やしたり文法を集中的に学習したりするクラスを設け、その中で学習者の生活や身の回りの出来事についてディスカッションしたり発表したりするなど、生活の日本語支援ができるようにした。これにより『みんなの日本語』の学習を終えた学習者でもJLPT対策をしながら生活に必要な日本語を学習することができ、より多くの学習者に日本語の学習を継続する機会を提供できることとなった。

さらに④について、2023年5月22日に、ニーズ調査の結果を共有し秋田市の技能実習生の今後の支援方法について意見交換するため「技能実習生の日本語支援を考える会」をオンラインで開催した。会には、日本語教室担当職員、技能実習生関連職員、受け入れ企業担当者、地域日本語教育関係者の参加があり、様々な立場から、支援内容や支援方法について活発な意見交換が行われた.

V-2. 今後の課題

今回のアンケート調査では、学習者のニーズを探りよりよい日本語学習の機会を提供するヒントとなる様々な声を聞くことができた。しかし、ここで問題となるのは、今回の調査が日本語のニーズを知ることのみを目的としていたことである。地域日本語教室には学習者、支援者双方にとって居場所となったり、教える・教えられるという関係を超え、対等な立場で学びあう場(萬波 2016)となる機能をも持たせることが理想であるならば、日本語学習の内容   を彼らのニーズに合ったものに改善するのみならず、地域日本語教室の役割を見直していく必要もあるといえる。この点、筆者らは教室に関わる講師らと自主的な勉強会を開催し、民主的かつ自由な議論を定期的に行っているため、そこで教室の課題やあり方について考えることができる。これからも多文化共生社会実現に資する理想の教室について、講師、運営者である市、受け入れ企業、そして教室利用者と対話を重ねながら、学習者のニーズに合った地域日本語教室を目指して、改善を図っていかねばならないと考えている。

1) ここでいう有資格者とは、日本語教育能力試験合格者、日本語教師養成講座(420時間プログラム)修了者、大学または大学院で日本語教育を主専攻・副専攻した者のことをいう。秋田市日本語教室では国際教養大学専門職大学院日本語教育実践領域との連携のもと、日本語教育を専門に学んでいる大学院生も講師をつとめており、現在は講師の6割程度を占めている。

引用文献

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岩下康子,2018b,「技能実習生の帰国後キャリアの考察―ベトナム人帰国技能実習生の聞き取り調査を通して」『広島文教女子大学紀要』53, 33-43.

田中真寿美・風晴彩雅,2021,「特定業種の技能実習生向け日本語教育シラバス開発のためのニーズ調査報告」青森中央学院大学研究紀要34, 171-182.

平田友香・古田梨乃,2023,「秋田市における技能実習生支援の在り方とは―地域日本語教育関係者と受け入れ企業との「技能実習生の日本語支援を考える会」より」日本語教育方法研究会誌30(1), 56-57.

平田友香・宮淑・古田梨乃,2022,「(株)たけや製パンにおける技能実習受け入れ②―来日後・実践編」『人口減少・超高齢社会と外国人の包摂ー外国人労働者・日本語教育・民俗文化の継承』明石書店.

古田梨乃・平田友香・宮淑2021,「オンライン授業に必要な工夫について考える―地域の日本語教室 秋田県秋田市の例」日本語教育方法研究会誌28(1), 18-19.

古田梨乃・平田友香・宮淑,2022,「地域日本語教室における講師勉強会の実践報告―秋田市日本語教室(オンライン)の例」日本語教育方法研究会誌28(2), 68-69.

古田梨乃, 2023,「日本で就職する選択をした元技能実習生の技能実習における経験―SCATを用いた語りの分析」日本語教育方法研究会誌30(1), 92-93.

毛利貴美・中嶋佳貴, 2021,「農業分野における外国人技能実習生に対する日本語教育の現状と課題ー教材開発に向けた予備調査の結果から」岡山大学全学教育・学生支援機構教育研究紀要6, 191-205.

萬浪絵里,2016,「地域日本語教室で「学習支援」と「相互理解」は両立するか―日本語教育コーディネーターの実践をとおした考察―」『言語文化教育研究』14, 33-54.

見舘好隆・河合晋・竹内治彦,2022,「技能実習生のキャリア形成モデルの提案 :―阻害要因の解決を視座にしたM-GTA分析を通して」『ビジネス実務論集 』40, 11-22.

宮谷敦美,2020,「ベトナム人技能実習生の帰国後のキャリア意識―元技能実習生日本語教師へのアンケート調査を基に」『愛知県立大学外国語学部紀要(言語・文学編)』52, 275-291.

山田泉,2018,「「多文化共生社会」再考」松尾慎編著『多文化共生―人が変わる、社会を変える』凡人社.

文化庁,2016,「日本語教育に関する調査の共通利用項目」(2022年2月1日取得 https://www.nihongo-ews.bunka.go.jp/infomation/examination).

厚生労働省秋田労働局, 2024,「令和5年「外国人雇用状況」の届出状況のまとめ(2024年3月1日取得https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/content/contents/001704117.pdf)

著者略歴

古田梨乃(新潟大学教育基盤機構国際センター/大学院現代社会文化研究科兼任准教授)

台湾開南大学外国語学部日本語学科専任講師、国際教養大学日本語プログラム講師、秋田市日本語教室講師など国内外で日本語教育に従事。2023年4月より現職。修士(日本語教育(専門職)、国際教養大学専門職大学院日本語教育実践領域)


宮淑(国際教養大学国際教養学部・非常勤講師)

岩手県国際交流協会、岩手大学国際交流センター、秋田市日本語教室、秋田県立大学本荘キャンパス日本語教室などで日本語教育に従事。2018年4月より現職。東北大学大学院文学研究科博士課程前期修了。修士(日本語学)


平田友香(国際教養大学国際教養学部・非常勤講師)

英国の州立小学校、ノッティンガム大学寧波校、秋田市日本語教室講師、秋田市日本語指導支援サポーター、秋田大学非常勤講師、秋田県日本語支援者養成講座講師、など国内外で日本語教育に従事。2015年9月より現職。修士(日本語教育、国際教養大学専門職大学院日本語教育実践領域)